三月のある夜--劇団の裏方留さんは表通りに異様な物音を聞いて飛び出してみると自動車が止まっていて一人の女が倒れていた。その女は数時間前に劇団の客員で新劇と名うての俳優大江純を訪ねて来た女だった。彼女は須田真弓といい、この奇禍に同情して留さんは、娘の光子と共に彼女を自分の部屋へ助け入れた。戦時中東北の田舎に疎開して来た大江に演技指導を受けた農村の娘真弓は遂に大江に身を許す仲となった。やがて終戦となり、大江は真弓を振り棄てるようにして帰京した。その後を追って上京した真弓に与えられたものは大江の余りにも冷酷な態度だった。憤怒と絶望から街を咆徨しているうち自動車に触れて倒れたのである。その頃劇団には海外の亡命先から帰朝したばかりの名演出家高垣信造と劇界のベテラン明石蘭子がいた。彼女は淫奔な性格で興行界の大立者岩村をパトロンにしている上に、高垣にも媚態を示していたが、高垣は相手にしなかった。その結果蘭子は大江に近づき醜聞を振りまいていた。そこに真弓が上京して来たのである。照明係をしている光子は真弓の美貌と才能を惜しんで演劇人として立つことをすすめ高垣に推薦した。高垣は次回公演「復活」に一役を振り当ててくれた。公演もあと三日で終わるという日になって蘭子が姿を見せず一座の者は困り抜いていた。高垣は思い切って辞退する真弓を抜擢して蘭子の代役に決めた。運命はかくして己れを一片の花片の如く棄て去った憎むべき女性の敵ネフリードフ役の大江と相対せしめた。五彩輝く絢爛たる舞台上に火華を散らす復讐は展りひろげられる、そして一躍スターとなった真弓は高垣の高潔な愛に抱かれるのである
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