故郷は緑なりき

１９６１（昭和３６）年 東映 １９６１(昭和３６)年キネマ旬報ベストテン３０位 ＜原作＞富島健夫「雪の記憶」 列車の中で、「アイタシ スグカエラレヨ ユキコ」という電報を握りしめて、大学生の小島海彦(水木)は久し振りに帰郷の途にあった。 ４年前の高校１年の３学期に、海彦は病弱な父(加藤)と２人で、魚の行商をしている兄夫婦(中山・山本)と一緒に小さな港町(柏崎と推定)へ移って来た。 そして、彼らは鄙びたあばら家に移り住むことになり、海彦は長岡市にある男子高校へ転校した。 転校した最初の朝である。海彦は通学する汽車の中で、セーラー服の美しい少女(佐久間)を見掛けた。 少女もまた、じっと海彦を見つめていた。それ以来、毎朝その少女に会うことが出来ることを、彼は幸福に感じるようになった。 海彦は朝鮮半島から引揚げて間もなく、母を亡くしていた。だが、少女を見掛けるようになり、その心の傷痕も癒されていった。 ２年生に進級したある日、満員の列車にその少女を庇って乗せたことが縁となり、２人は始めて親しく言葉を交わすことが出来た。 少女は志野雪子と名のった。裕福な家庭に育った彼女は、海彦に大学受験に備えて勉強するようにアドバイスをした。だが、彼の家は貧しくて、大学進学などは望めそうにもかった。それでも、海彦は彼女の言葉を聞いてからは、毎日勉学に励むのだった。 そんな折り、以前から雪子を狙っていた３年生の不良番長の和田(露崎)が、彼ら２人に危害を加えて来た。 そんな暴力にも屈しない海彦だったが、２人にとっては、和田から受けた屈辱は耐え難いものだった。海彦はしっかりと雪子を抱軋めた。 和田の後釜を狙う硬派の藤田(滝川)は、和田の脅しに動じない海彦を仲間にしようと接触して来る。 夏休みの終りに、突然海彦の父が死んだ。兄夫婦は長岡のマーケットの中に住み込みで出店するため引越して行った。 海彦が一人切りになった家へ、時折り雪子が訪ねて来た。そして、２人は将来のことなどを語り合う。ところが、誰かの投書でそれが学校に知れてしまった。 そんな２人の行動を憂慮した学究主任の竹田先生(三国)は、女子高の教師の小沢先生(藤里)と共に海彦と雪子を呼び、自重を促がした。しかし、２人はすでに結婚を決意していたのである。 一方、和田との対決を画策していた藤田は、遂に神社の境内で和田と対決する。そして、死者が出るほどの大事件になった。 翌日、新聞で事件を知った雪子は居ても立ってもいられず、海彦の学校まで駆けつけまるが、海彦は関与していなかったと知って胸を撫で下ろすのだった。 そして元旦の雪の中を、その事件以後永い間逢わないでいた雪子が訪ねて来た。 「私たち、早く大人になりたい」という雪子に、それまでの思いが一気に噴出する海彦だった。彼は雪子を抱こうとするが、雪子は「ごめんなさい。でも嫌いにならないで」と言う。海彦は強い自己嫌悪に陥る。 それから４年の歳月が流れた。大学へ進学した海彦は久し振りで故郷の土を踏んだ。だが、海彦を待っていたのは、思い掛けない雪子の死であった。ふとした風邪をこじらせた結果、肺炎に罹ったのだと言う。 慟哭が海彦の胸いっぱいに広がった。忘れられない雪子の記憶が、溢れ出る涙の一つ一つに美しく蘇えっていった。 傷心の海彦を乗せて、雪の中を汽車は走り去る・・・。